上田・小県地方では、本格的な冬の到来とともに、凍み豆腐は傍陽(そえひ)から自転車でやってくるのです。
 いえいえ、凍み豆腐が自分で自転車に乗ってくるのではなく、自転車の荷台の大きな四角いカゴに、凍み豆腐をたくさん入れた行商のオジさんが自転車を引いてやってくるのです。

 寒い冬の日曜日、ジャンパーに飛行帽かハンチングのオジさんが、「チワーッ、 ソエヒから来たんだけど、凍み豆腐どうかね」と家々を回ってきます。

 交渉が成立すると、荷台の四角い大きなカゴから、ワラで編んで(これを一連といいます)、まだ凍っていて、かなり重たい豆腐のつながりを数連持ち上げて、家の縁側に広げた新聞紙の上においていきます。


 もちろん、すでに乾燥が終了しているものもありますが。これを軒先にぶら下げたまま乾燥させると、凍み豆腐の出来上がり、いわゆる、自然食品のフリーズドライなのです。

 しばらくの間、干しっぱなしにした豆腐を、使うたびにワラから外して料理するのですが、どうかすると夜中に軒先の梁をつたわって行ったねずみにかじられて
しまうのです。

 そこで一計を案じ、庭の真ん中に電線のように張った針金にかけて干したりもするのですが、ねずみというものは、利口なもので、朝になって、豆腐につけられた歯型を見つけ、口惜しがったものです。

 このようにねずみと競争して食べる凍み豆腐は、“お雑煮・味噌汁・煮物”と、とっても素朴な味わいで、寒中の食卓をにぎわしてくれます。

 ねずみの歯型が付いたまんまの凍み豆腐も、懐かしい思い出の味です。



素朴な味わい 凍み豆腐


 真田町振興公社で販売しているのは、なつかしい傍陽産の凍み豆腐です。

 この傍陽で凍み豆腐を作っている、中横道の坂口 明さんのお宅をたずねてみました。
(ご主人はお出かけでしたので、笑顔の素敵な奥さんにお話をおうかがいしました)

 坂口さんでは、おじいさんの明さん(70歳)がお豆腐を作り、奥さんの愛子さん(65歳)がこれをワラで編んだり、乾燥を管理したりの分業で、凍み豆腐作りをしています。

 お豆腐は夜中の3時半から作り始め、午前中に作り終わります。
夕方になって、その日の気温が零下4度を下回ると、豆腐を同じ大きさに切り出し、これを大きな竹の網の上に並べ、夜の間に凍らせるのです。

 凍った豆腐は、あらかじめきれいに仕上げた3本のワラで編み上げ、一連の凍み豆腐となります。


 昼間のお天気が続けば、だいたい1週間で、乾燥した硬い凍み豆腐となるわけです。

 坂口さんの所では、毎年12月20日頃から、翌2月の15日位まで、このようにして凍み豆腐を作っているそうです。

 凍み豆腐を干してある軒先には、すずめ除けの網がはってありました。(さすがにねずみはいないそうです)

 夜のキーンと冷えた寒気と、昼間の暖かい日差しが、あのおいしい傍陽の凍み豆腐を作るのです。